株主権帰属の問題とは?争いに発展するケース、対処方法を解説

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会社で勃発した内部紛争を解決するうえで、株式の保有数や保有割合は非常に重要な意義を持ちます。

なぜなら、会社法の定めにより、会社は株主に所有されるのが基本的であり、重要な意思決定のほとんどは過半数の株式を保有する株主によって決定されるためです。

とはいえ、昨今においても株主権帰属の問題が発展し、株主権確認訴訟が提起されるケースは珍しくありません。

そこで本記事では、会社経営に際して株主権帰属の問題が争いに発展するケースについて紹介したうえで、株主権帰属の問題を発生させないための対処方法や、株主権帰属の問題を株主権確認訴訟で争うための方法などを中心にコラム形式で取り上げます。

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株主権帰属の問題とは

まずは、株主権帰属の問題に関する基本的な知識を整理してお伝えします。

そもそも株主権とは、企業の株式を取得した株主に対して与えられる権利のことであり、剰余金分配請求権や残余財産分配請求権、株式買取請求権などのように株主個人の財産的な利益に関する権利(自益権)と、株主総会における議決権や株主総会決議取消訴権、会社組織に関する行為の無効訴権、取締役の違法行為の差止請求権といった株主全体の利害に関する権利(共益権)に分類されます。

株主権の中でも共益権については、株主総会への出席権や株主代表訴訟提起権など1株(1単元株)の株主でも行使できる単独株主権と、会計帳簿閲覧請求権や株主総会招集請求権というような一定割合以上の株式数を持つ株主でなければ行使できない少数株主権に分けられます。

株主権帰属の問題が発生する場合、多くのケースで共益権の帰属が問題になります。

株主権帰属の問題で争いに発展するケース

まず、本章では、株主権帰属の問題が争いに発展するケースの中から、代表的な3つをピックアップし、順番に解説します。

相続対策のために子どもを名義株主にしている

銀行口座や不動産などと同じように、株式にも名義が存在します。株式の名義は、株式総会で議決権を行使するなど、企業と株主との関係で重要な意義を持ちます。

他人の名義を借用して株式の引受けや払い込みなどがなされ、その結果として株式名簿上の株主と株式の真の所有者が一致しない株式は「名義株式」と呼ばれ、「名義株式」の株主は「名義株主(株主名簿上の株主)」と呼ばれています(株式だけでなく土地や建物などにおいても、真の所有者と名義人が異なっているケースは見られます)。

そもそも会社としては、株主名簿上の名義株主を株主として取り扱えば足りることから、名義株式および名義株主の存在は認められています。

しかし、一般的には、名義株主が存在する状況を作り出すことなく、実質株主(実際に出資した真の株主)と名義株主が一致している状態を維持することが望ましいと考えられています。

とはいえ、現実的には親が権利を持っていたとしても、相続対策を講じる目的で自身の子どもを名義株主にしておくケースは多くあり、こうした行為が将来的に思わぬ争いを生むことがあるのです

株式の名義は重要な意味を有するものの、会社としては株式の真の所有者を逐一把握できているわけではありません。

そのため、会社は名義株主を株主として扱えば足りるのです。しかし、これにより、例えば「実質株主がAで名義株主がB」の外観と、「株式の実際の権利者と名義人がいずれもA」の外観に違いが見られなくなってしまいます。とりわけ実質株主と名義株主が異なるケースでは、本当は誰が株式を有しているのか判然としないことが多く、争いに発展しやすいです。

争いに発展した場合、一方からは「名義株主だ」という主張が、他方から「名義だけでなく実体の権利も伴っている」という主張がなされることが多いですが、外部の立場から見るとどちらの言い分が本当であるのか判定が非常に難しくなります。

会社設立などのために名義株主が存在する

1990年以前、改正前商法において、中小企業では株式会社の設立には7名以上の発起人の確保が求められていたため、その員数を満たす目的のもとで現実の引受人以外の者から承諾を得て、発起人としての名義を借り受けるケースが多く見られました。

こうした事情から、社歴の長い会社ほど、名義株主の問題を抱えている事例が多く、創業者が死去して相続が発生した際などに名義株主の問題が顕在化することが多いです。

そのほか、「過去にトラブルのあった取引先と取引を実施する目的で」「勤務先の兼業規定の都合上」「医療法人の役員をしている都合上」「過去に破産や債務整理をしているため」といった理由により、その妥当性や適法性などは別にして、実質株主と名義株主を分けたために名義株主の問題が顕在化するケースは現在でも珍しくありません。

実質株主に関する解説

最高裁判所の判例(最判昭和42年11月17日)によると、会社に実際に資金を払い込んだ出資者が実質株主となります。

同判例は、新株発行において他人の承諾を得てその名義を用いて株式の引受がなされ、名義貸与者と名義借用者のいずれが株主になるかが争われた事案でしたが、最高裁は「真の株主は名義人(名義貸与者)ではなく、実際に払い込み・対価の提供を行った行為者(名義借用者)である。」と判断しました。

これにより、「実務上、名義株式の実質的な所有者こそが実質株主として認められる」という実質説がほぼ確立しています。とはいえ、「誰が実際に払い込み・対価の提供を行ったのか」が争われた場合、その認定は容易ではありません。

東京地裁昭和57年3月30日判決(判例タイムズ471号220頁)では、「実質株主の認定にあたっては、①株式取得資金の拠出者、②名義貸与者と名義借用者との関係及びその間の合意の内容、③株式取得(名義変更)の目的、④取得後の利益配当金や新株等の帰属状況、⑤名義貸与者及び名義借用者と会社との関係、⑥名義借りの理由の合理性、⑦株主総会における議決権の行使状況などを総合的に判断する」とされていますが、実際は証拠によって結果が変わる可能性も十分あるうえに、認定結果によっては経営権が変わってしまうようなケースも少なくありません。

なお、上記の要素を総合的に考慮して判断された結果、実質株主であると認定された株主には、本記事の冒頭の章「株主権帰属の問題とは」で述べた株主権の行使が認められることになります。

ただし、会社としては、株主名簿上の名義株主を株主として取り扱えば足りることから、株主名簿上の株主ではない実質株主は、会社に対して権利を行使することはできません。

他方、名義株主は実態の権利を伴っていないのに会社に対して株主権の行使ができてしまいます。

この点、実質株主としては、会社に対して、実質的に、権利を行使することができるよう、名義株主との間で名義株主確認書を締結し、名義株主は名義株主に過ぎないことや、名義株主は実質株主の意向に基づいて株主権を行使するべき旨が規定されることが必要となりますが、実際に、名義株主確認書を締結しているケースはあまり多くないように思われます。

ただ、名義株主が剰余金分配請求権や残余財産分配請求権に基づき得た分配金などの金銭(自益権)については、名義株主の不当利得ですので、実質株主は名義株主に対して不当利得返還請求権を行使して請求することが可能ですし、名義株主が行使し得る株主総会における議決権などの権利(共益権)については、実質株主の意向に反した行使を行なったりすると権利濫用となったりします。

株式譲渡契約書がないために誰に株式が帰属しているのか不明

とりわけ社歴が比較的長い会社などでは、設立時より株主が幾度か変更されているケースがあります。

しかし、こうした企業が株主を変更するにあたって、株式譲渡契約書などの必要書類を具備していないケースは決して珍しくないのです。

上記のような事態に陥る主な要因には、「株式譲渡に関する証明書類は税務上および登記上で必ずしも要求される書類ではない点」や「そもそも中小企業では株主名簿がそれほど具備されていない実態がある点」などが挙げられますが、いずれにしても、内部紛争が一度発生してしまうと、必要書類が具備されていないために、「そもそも株主かどうか」という点を含めて株主権帰属の問題が争われるケースがあります。

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株主権帰属の問題への対処方法

株主権帰属の問題が争いに発展するおそれがある場合、これを見越して対策を講じることで、将来的に有利に立ち回れたり、争いをスムーズに解決できたりする場合があります。

本章では、株主権帰属の問題を発生させないための対処方法として、代表的な4つの防衛策をピックアップし、順番に解説します。

契約書の作成・証拠書類の確保を徹底する

企業内部で紛争が発生した際、企業経営に必要な株式を失わないための防衛策としては、まず株式譲渡契約書や当該譲渡を承認する株主総会決議書などの書類を証拠として確実に準備しておくことが望ましいです。

なお、確定申告書類などに用いられる「同族会社等の判定に関する明細書」は確かに重要な情況証拠の1つとなるものの、あくまでも間接証拠に過ぎず、自身が保有する株式数を直接証明する書類にはあたらない点にくれぐれも注意しましょう。

特に名義株式を利用しているケースでは、株主名簿上は株式が他人名義となっていることから、自らが実質株主であることを積極的に証明していく必要があるため要注意です。

書類作成時は当事者が自署する

株式譲渡契約書をはじめとする契約書類はもちろん、会社設立時の定款や株主総会の議事録、会社登記変更時の株主総会議事録など、株主による権利行使に関する書面を作成する際は、可能な限り株主として自署する(もしくは、させる)ことも、経営権の重要な防衛方法です。

一般的に、会社の登記変更時に作成する書類は、司法書士などの専門家に一任するケースが多く、法律上も株主総会議事録に株主の署名が要求されているわけではありません。

そのため、株主総会議事録などの書類に株主権帰属が問題となる当事者の自署が盛り込まれるケースは決して多くありません。

しかし、株主による権利行使に関する重要書類に株主権帰属が問題となる当事者の自署があれば、自身が株主であることの大きな証拠となり得ます。

すべての書類に自署しない(もしくは、させない)場合であっても、一部でもそのような書類があれば、証明の難易度が低下するため、株主による権利行使に関する書類を作成する際は、可能な限り自署する(もしきは、させる)ことを心懸けてください。

日常的に株式の帰属を明確化しておく

通帳や振込明細、領収書、株券など自身が実質株主であることの分かる書類の原本は必ず自分で保管しましょう。このような重要書類の原本類を確保しておくことも、実質株主を判断するための情況証拠の1つとなり得ます。

また、重要書類の原本類を確保しておくことで株式の帰属を明確化でき、争いが顕在化する前から持株比率を高めるなどの対策を講じて、会社支配権を維持できるようになります。

これに加えて、早期の段階で名義株式を整理しておく必要があります。具体的には、名義株主との間で承諾書等の書類(書類名の例「名義株式確認書」)を交わすか、名義株式を実質株主の名義に戻しておかなければなりません。

名義株式確認書に記載すべき内容は、前述した実質株主を認定するための判断要素に盛り込まれている3つの項目「株式取得資金の拠出者および取得代金」「名義貸与者と名義借用者との関係および、その間での合意の内容」「名義借りの理由」)であると考えられています。

弁護士に相談する

実際、ここまでに紹介した対処方法が講じられなかったために、株主権の実質的帰属が問題となってしまうケースは非常に多いです。

実際に株主権帰属の問題が株主権確認訴訟などに発展する場合に比べると、株式譲渡契約書などの作成にかかる弁護士への依頼費用は非常に少なく抑えられます。

そのため、名義株式の譲渡・譲受などを行う際は、安易に自己判断せずに弁護士に相談することをおすすめします。

株主権帰属の問題における争い方

株主権帰属の問題への防衛方法の最終手段として、株主権確認訴訟で争う選択肢も存在します。本章では、株主権帰属の問題を株主権確認訴訟で争ううえで知っておくべき情報を整理しました。

株主権確認訴訟とは

株主権確認訴訟とは、株主権の帰属が争われる場合に、自分に株主権が帰属することを確定させるための訴訟のことです。

訴訟当事者

自身に株主権が帰属していることを裁判所に認めてほしい人であれば、誰でも株主権確認訴訟を提起できます。相手方となる被告は、訴えを提起した者との間で株主権帰属をめぐる紛争を起こしている人です。

主張・立証の方法

株主権を取得する原因となった出来事の存在は、証拠によって明らかにできます。

そのため、株主権確認訴訟では、株主権を取得した原因の存否およびその有効性を、訴訟当事者の間で主張・立証し合うことで、株主権の帰属を明らかにしていくのが一般的です。

株主権確認訴訟の重要性

そもそも株主権帰属の問題は、単純にそれ自体のみが争われるよりも、他の訴訟の中で争われることが多いです。

具体例を挙げると、取締役の選任を決議した株主総会決議が不存在である旨の確認訴訟において、真の株主に招集通知を発送しなかったことなどを理由に争われた場合。株主権の帰属先について争われます。

しかし、上記のような訴訟でも株主権の帰属について判断は行われるものの、その株主権の帰属に関する判断は判決理由中の判断に過ぎず、株主権帰属の判断に法的効力(既判力)は認められません。

つまり、先行する判決における株主権の帰属の判断が、後の裁判に法的な影響を与えないことになります。

一方で、株主権確認訴訟において株主権の帰属が確定すると、そこに既判力が生じることから、その後の裁判に法的な影響を与えられるため、内部紛争などの抜本的な解決を図ることが可能です。

したがって、株主権の帰属が他の訴訟の中で争われる場合には、併せて株主権確認訴訟を提起して抜本的な解決を図ることが大切です。

株主権確認訴訟の解決が難しい理由

もともと新株発行により株式を原始取得する場合であり、なおかつ募集株式の申込みおよび割当ての手続を経ない場合、株式引受契約が締結されます。

この株式引受契約について書面で契約書を交わしていれば問題は生じないものの、契約書を作成していなかったり、企業が会社法の規定に沿って運営せずに株主名簿などを具備していなかったりするケースもあります。

また、会社の支配権を得る目的で、株主権を主張する人が会社の代表取締役と通謀し、株主名簿や株式譲渡契約書が偽造されるケースもあります。

上記に挙げた、書類の不備や会社法の規制の盲点を突いた虚偽の証拠などが要因となり、株主権確認訴訟の解決が極めて難しくなるケースも珍しくありません。

株主権確認訴訟の事例

株主権確認訴訟が提起された事例を紹介します。

AとBは共同してY社を経営し、 AとBの他にCとDが株主となっていたところ、Bが死亡したために、Xがこれを相続しました。 XはCとD名義の株式は名義株式であり、 実質株主はBであったとして、 Y社に対してB、C、Dの名義となっている株はすべて自己のものであることの確認を求めるために、株主権確認訴訟を提起しました。

この株主権確認訴訟では、X側はCとD名義の株式はBが出資したものであると主張したのに対して、Y社側はCとD名義の株式はAが出資したものであると主張したため、 双方で立証活動が行われています。

結果的に、Xは配当等金銭的利益に関心があり、 将来的にY社の経営に参加する意思がなかったことから、 Xの所有するY社株すべてをAが買い取る旨の和解が成立しています。

名義株主が問題となった事件①

名義株主であるとしてさまざまな間接事実を主張したものの、これらを含めて検討しても、経験則上権利推定するにはなお十分とはいえないとして名義株主であることが否定された事例として「コクド株主総会決議不存在確認請求事件(東京高裁平成24年12月12日判決 判時2182号140頁)」が挙げられます。

本件は、Y1社、Y2社及びY3社が実質株主であるXを無視し、名義株主を株主と扱って一連の組織再編行為を強行し、創業家を排除したとして、これに関係する各組織再編行為の根拠となった株主総会決議の不存在確認等を求めた事案です。

本件では、Xが実質株主である被相続人から株式を相続したとして本訴を提起していたところ、Xの原告適格との関係で、被相続人の株主権の有無が争点となりました。本判決では、Xが主張する各間接事実を含めて検討しても、経験則上被相続人の権利を推定するには足りないとして、Xの原告適格が否定されています。

名義株主が問題となった事件②

家業を法人化した際、先代が株式払込金を支出した場合において、長男・長女を実質株主として株式を取得させるため、その株式払込義務を代わって履行したものであるとして、長男・長女の株主権を認めた事例として、「札幌地裁平成9年11月6日判決・判例タイムズ1011号240頁」が挙げられます。

本件は、株式払込金の負担金ではないという形式のみで事柄を決することなく、実質的な側面を重視してきめ細かな判断を示しており、事例的意義を有するものとして実務上参考になる事例であると考えられています。

名義株主が問題となった事件③

これは株式会社の事例ではないものの、特例有限会社の増資に係る出資の履行につき拠出を行った者が実質株主(社員)と認められ、真の株主でない者によってなされた取締役解任決議の不存在確認の訴えおよび取締役の未払い報酬の支払いを求める訴えが認められた事例として、東京地裁平成27年2月18日判決・判例時報2267号114頁が挙げられます。

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まとめ

株主権帰属の問題で争いに発展するのは、以下のようなケースです。

  • 相続対策のために子どもを名義株主にしている
  • 会社設立などのために名義株主が存在する
  • 株式譲渡契約書がないために誰に株式が帰属しているのか不明

上記を踏まえて、株主権帰属の問題を発生させないための主な対処方法は以下のとおりです。

  • 契約書の作成・証拠書類の確保を徹底する
  • 書類作成時は当事者が自署する
  • 日常的に株式の帰属を明確化しておく
  • 弁護士に相談する

株主権帰属の問題への防衛方法の最終手段として、株主権確認訴訟で争う選択肢も存在します。

もしも株主権帰属の問題が顕在化した場合、企業法務に通じた弁護士による適切なサポートを受けることが大切です。手続き面から内部紛争への対応まで、株式に関して不安があれば、企業法務を専門的に扱う弁護士に相談することをおすすめします。