スクイーズアウトでの買取価格を決める株価算定方法とは?手法や全体の流れを解説
スクイーズアウト(Squeeze Out)は、株主による株式の買取り手続きの一つであり、特定の株主が少数株主に対して株式を取得する際に使用される手法です。この記事では、スクイーズアウトの手法やスクイーズアウトでの買取価格を決める際に使用される株価算定方法について解説を行います。
スクイーズアウトとは
スクイーズアウトは、株主による株式の買取り手続きの一つです。これは、企業の少数株主から株式を買い取り、完全な支配権を得ることを目的としています。スクイーズアウトは、主に大株主や親会社によって行われ、株式の少数株主に対する買い取りを通じて企業の経営を統合・統一することを可能にします。スクイーズアウトは日本語で「締め出し」と訳され、反対意見を持つ少数株主から株主の地位を失わせること、つまり締め出すことを目的に行われることもあります。
スクイーズアウトの手法
スクイーズアウトの手法には下記の種類があります。
・株式併合
・現金対価株式交換
・全部取得条項付種類株式
・株式等売渡請求
それぞれ解説します。
株式併合
株式併合は、スクイーズアウト手法の一つとして使用される手続きです。株式併合は、企業が株主の保有する株式を統合するために行われる手法であり、株主が保有する株式をより少ない数量の新株式に交換することによって行われます。例えば、1万株を1株に併合するといったような形です。
株式併合は、通常、以下の手順で行われます。
併合計画の策定:企業は、株式併合の計画を策定します。この計画には、併合比率(新株式の数量と既存株式の数量の比率)や交換条件などが含まれます。併合計画は、株主総会の承認を受ける必要があります。
株主総会での特別決議:併合計画は、企業の株主総会で承認される必要があります。株主総会において、併合計画の内容や影響についての説明が行われ、株主から2/3以上の賛成多数を得る必要があります。
新株式の交付:併合が承認された後、既存の株主は保有している株式を新株式に交換します。株主は、併合比率に基づいて新株式を受け取ることになります。交換後、既存株式は無効化され、新株式のみが有効となります。
会社法では、保有株式が1株未満の場合、株主としての権利が認められていないため、スクイーズアウトにおける株式併合は、少数株主の保有株式を1株未満にすることで、議決権を消滅させることを目的とします。最終的に端数となった1株未満の株式を、スクイーズアウトを行った側が買い取ればスクイーズアウトは完了となります。
なお、提示された買取価格が低いなどの理由で少数株主が株式併合に反対する場合、会社との協議を行い、買取価格を調整することとなります。もし協議が整わない場合は裁判所に対して価格決定の申立てをすることで、公平な立場から評価をしてもらうことができます。
現金対価株式交換
現金対価株式交換は、買い手が株主に現金を提供することで株式を買い取る手法です。この手法は、買い手が資金を保有している場合や現金による買収が適切な場合に選択されることがあります。また、現金対価株式交換では、買収価格が企業の評価に基づいて決定されます。この方法は、対象企業を完全子会社化することを目的として採用される手法です。
現金対価株式交換の手続きは、以下のような流れで行われます。
買収計画の策定:買い手は、少数株主から株式を買い取るための買収計画を策定します。計画には、買収価格や交換比率、買収の意図や目的などが含まれます。
株主総会での特別決議:買収計画は、企業の株主総会で承認を受ける必要があります。株主総会において、計画の内容や影響についての説明が行われ、株主から2/3以上の賛成多数を得る必要があります。
現金対価株式交換:承認された後、買い手が株主に現金を提供することで株式を買い取ることとなります。
なお、株式併合の時と同じように、会社との協議を行い、買取価格を調整することとなります。もし協議が整わない場合は裁判所に対して価格決定の申立てをすることで、公平な立場から評価をしてもらうことができます。
全部取得条項付種類株式
全部取得条項付種類株式は、スクイーズアウト手法の一つであり、特定の株主が少数株主から株式を強制的に買い取ることができる株式に変更する際に使用される手続きです。この手法では、発行済みの株式を全部取得条項付種類株式に変更した上で、買い手が株主から株式を買い取ることになります。少数株主には、通常1株未満の株式が残るように調整されます。
この手法は、現在ではほとんど利用されていません。
株式等売渡請求
株式等売渡請求とは、会社の株式を9割以上保有する株主であれば、少数株主の同意を得ることなく株式を買い取れる制度のことです。この手法は、一部の少数株主の合意が得られず、スクイーズアウトが完遂できない場合に用いられます。一般的には株式公開買い付け(TOB)などを行い、会社の株式の9割以上を保有することができたのち、株式等売渡請求を行い、スクイーズアウトを行います。
スクイーズアウトでの買取価格を決める株価算定方法
株価算定方法は多数存在します。そのため、少しでも安く買いたい側と少しでも高く買い取らせたい側で調整ができず、裁判になることがあります。ですので、スクイーズアウトをする上で、過去の裁判例が株価算定方法についてどのような判断を下しているかが重要な意味を持ちます。
過去の多くの裁判例では、複数の評価方法により計算された金額を併用した値を株価とするという方法を採用しています。よって、以下に紹介する株価算定方法の一つを理解すれば良いというわけではなく、それぞれの特徴やメリット・デメリットをしっかりと吟味した上で、どの株価算定方法を採用するかが重要となります。
それでは、具体的な株価算定方法を解説します。スクイーズアウトでの買取価格を決める株価算定方法には以下のような種類があります。
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
- コストアプローチ
それぞれ解説します。
インカムアプローチ
インカムアプローチとは、資産の将来の収益やキャッシュフローを基にして、将来の収益性に焦点を当て、その価値を算定します。具体的には以下のような方法があります。
- DCF法
- 収益還元法
- 配当還元法
それぞれの方法について解説します。
DCF法
DCF法は、企業評価や投資評価において使用される評価手法の一つです。この手法では、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価を行います。
DCF法は、将来のキャッシュフローを現在価値に換算することで、資産やプロジェクトの価値を評価します。この手法は、投資判断や企業の評価において非常に重要な役割を果たします。
DCF法の特徴は、将来のキャッシュフローの予測に基づいて評価が行われるため、予測の正確性や信頼性が評価結果に大きく影響する点です。また、割引率の設定も重要であり、リスクや市場の状況を考慮して適切に設定する必要があります。
DCF法は、企業の株式評価や投資案件の評価に広く使用される評価手法です。しかし、予測の難しさやデータの不確実性などの課題も存在します。そのため、DCF法の使用には注意が必要であり、適切な情報やデータの収集、適切な予測手法の選択が重要となります。
収益還元法
収益還元法は、企業の将来の予想収益に基づいて価値を評価する手法です。この手法では、将来の予想収益が評価結果に大きく影響するため、予測の正確性や信頼性が重要です。また、適切な割引率の設定も重要であり、企業のリスクや市場の状況を考慮して適切に設定する必要があります。
収益還元法は、企業評価や投資評価において広く使用される手法です。将来の収益性やキャッシュフローを重視した評価が可能であり、投資家や企業が適切な判断を下すのに役立ちます。ただし、予測の困難さや情報の不確実性などの課題もありますので、適切な情報収集や予測手法の選択が重要となります。
DCF法の簡易版とされており、DCF法より計算が簡単なため、大まかな計算をしたい時に採用されます。
配当還元法
配当還元法は、企業の評価や投資評価において使用される手法の一つです。この手法では、企業が将来的に配当として株主に還元する予想配当を基にして企業の価値を算定します。
非上場企業の相続の場面などで採用されることが多く、M&Aの場面ではあまり使われない手法です。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、市場で実際に行われている同様の企業や資産の取引価格や指標を基にして評価を行います。具体的には以下のような方法があります。
- 市場株価法
- 擬似会社比較法
- 擬似取引比較法
それぞれ解説します。
市場株価法
市場株価法は、企業の評価や株式の価値を決定する手法の一つです。この手法では、企業の時価総額や株式の市場価格を基にして評価を行います。
市場株価法は、市場での株式の取引価格が企業の価値を反映しているという考え方に基づいたものです。つまり、市場株価法は、市場参加者の評価や需給のバランスを重視する手法です。市場の価格形成メカニズムを反映しているため、市場の評価や動向に敏感に反応します。ただし、株式市場の価格は時折劇的な変動を示すこともあるため、その変動に注意しながら評価を行う必要があります。また、市場株価法も他の評価手法と組み合わせて使用されることがあります。適切な株価指標や比較対象の企業の選定などが重要となります。
擬似会社比較法
擬似会社比較法は、企業の評価や資産の評価において使用される手法の一つです。この手法では、評価対象となる企業に類似性の高い別の企業の取引データや財務情報を参考にして評価を行います。
擬似会社比較法の基本的な考え方は、類似した業界や業種、規模、成長性、リスクなどの要素を持つ他の上場企業の取引データや財務情報を参考にして、評価対象となる企業の価値を推定するというものです。他の企業の実績や市場価値を基にして評価対象となる企業の価値を推定することが特徴です。ただし、比較対象の企業の選定や適切なデータの収集が重要となります。また、評価対象となる企業の独自性や特異性によっては、似たような上場企業がいないという可能性もあります。
擬似取引比較法
擬似取引比較法は、評価対象となる企業の特定の取引や契約条件を基に、同様の条件を持つ他の企業の取引データや財務情報を参考にして評価を行います。
擬似取引比較法は、特定の取引や契約条件を再現するために他の企業のデータや情報を利用する手法です。評価対象企業の取引条件に基づく価値を推定することが特徴です。ただし、適切なデータの選択や比較対象の企業の選定などが重要となります。また、そもそも擬似取引を見つけ出すのが難しいというデメリットも存在します。
コストアプローチ
コストアプローチは、企業の純資産額をもとに計算を行う方法です。具体的には以下のような方法があります。
- 簿価純資産法
- 時価純資産法
- 再調達原価法
それぞれ解説します。
簿価純資産法
簿価純資産法は、企業の財務諸表に記載されている簿価純資産を評価の基準として使用するというものです。つまり、貸借対照表の純資産を株主価値とするということです。
簿価純資産法は、企業の簿価純資産を評価の基準として使用する手法です。簿価純資産は財務諸表に明示されているため、評価対象の企業の情報を基に比較的容易に算出することができます。ただし、簿価と時価が乖離することが多いため、あまり実用的とは言えません。
時価純資産法
時価純資産法(修正簿価純資産法)は、企業の資産や負債を市場価格や時価評価に基づいて評価し、その差額を純資産として算出します。具体的には資産の時価総額から、負債の時価総額を差し引いた金額を時価純資産とみなします。
時価純資産法は、企業の資産や負債を市場価格や時価評価に基づいて評価する手法です。時価評価は市場の現実的な価値を反映するため、企業の実態や将来のキャッシュフローをより正確に評価することができます。ただし、将来期待できる利益について、数字に反映することができません。
再調達原価法
再調達原価法は、企業が所持する資産を再取得するために必要な費用を見積もり、その費用を評価の基準として使用するというものです。つまり、買収対象企業を0から作ったらいくらかかるかを計算するということです。
再調達原価法は、資産の再購入または再生産に必要な費用を評価の基準として使用する手法です。この手法では実際の市場での再調達を想定し、費用を見積もることでより現実的な評価を行うことができます。ただし、あくまで資産を再調達するための原価を計算するための方法ですので、正確な株価の算定をする際は他の方法と組み合わせで評価をする必要があります。
スクイーズアウトでの株価算定方法ごとのメリット
スクイーズアウトでの買取価格を決める株価算定方法をいくつか紹介しましたが、これらのメリットをアプローチごとに解説します。
インカムアプローチのメリット
インカムアプローチとは、資産の将来の収益やキャッシュフローを基にして、将来の収益性に焦点を当て、その価値を算定します。
インカムアプローチのメリットとして、長期的な評価が可能な点が挙げられます。インカムアプローチは将来のキャッシュフローを評価に反映するため、長期的な評価が可能です。将来の成長や収益の見込みを分析し、企業や資産の持続的な価値を評価します。この手法によって、投資家や企業は将来の展望に基づいた投資戦略や意思決定を行うことができます。
他にも経済状況の考慮ができる点がメリットとして挙げられます。インカムアプローチは、経済状況や市場の変動を考慮するため、より現実的な評価が可能です。将来のキャッシュフローの割引率や収益性を見積もる際には、市場の状況や金利の変動、業界の動向などを考慮することが重要です。これにより、将来のキャッシュフローの実現性をより正確に評価することができます。
マーケットアプローチのメリット
マーケットアプローチは、市場で実際に行われている同様の企業や資産の取引価格や指標を基にして評価を行います。
マーケットアプローチのメリットとして、評価価格に直近の市場情報の反映をすることができることが挙げられます。マーケットアプローチは、実際の市場取引に基づいた情報を利用します。企業や資産の価値を市場で取引される類似の企業や資産の価格や指標と比較することで評価します。これにより、擬似取引が直近にある場合は、市場情報を評価価格に反映させることができます。
他にも市場の動向を参考にできることがメリットとして挙げられます。マーケットアプローチは、市場の意思決定を参考にするため、市場の評価や需要と供給の動向を考慮することができます。市場参加者の意思決定や市場の動向は、企業や資産の価値に影響を与える重要な要素です。マーケットアプローチを活用することで、市場の視点を取り入れた評価が可能となります。
コストアプローチのメリット
コストアプローチは、企業の純資産額をもとに計算を行う方法です。
コストアプローチのメリットとして客観的な評価が可能ということが挙げられます。コストアプローチでは、企業や資産を再建するために必要なコストを評価の基準とします。具体的には、土地、建物、機械装置などの簿価価格や時価価格、再調達コストを評価の対象とします。この手法は、評価対象の実際のコストを分析し、価値を算出するため、客観的な評価が可能です。
スクイーズアウトでの株価算定方法ごとのデメリット
次にスクイーズアウトでの買取価格を決める株価算定方法のデメリットをアプローチごとに解説します。
インカムアプローチのデメリット
インカムアプローチのデメリットとして挙げられるのが、適用の難しさです。インカムアプローチは、将来の収益を見積もることに基づいて評価を行います。しかし、将来の収益は予測に基づくものであり、不確実性が伴います。正確な予測を行うことは難しく、予測モデルや仮定によって評価結果が大きく変動することがあります。
また、割引率の不確実性も挙げられます。インカムアプローチでは、将来の収益を現在価値に割り引くために割引率を利用します。しかし、割引率は不確実性を伴う要素であり、その値を適切に設定することは困難です。割引率の選択によって評価結果が大きく変わることもあります。
マーケットアプローチのデメリット
マーケットアプローチのデメリットとして、正確な比較データを入手しなければならないことが挙げられます。マーケットアプローチでは、評価対象となる企業や資産と類似性の高いデータを比較することが重要です。しかし、適切な比較データを入手することが困難な場合があります。類似の企業や資産の取引データや指標を見つけることができない場合、正確な評価が行えない可能性があります。
また、マーケットは常に変動していることもデメリットと言えます。マーケットアプローチでは、市場での実際の取引価格や指標を利用します。しかし、市場は常に変動しており、評価時点と比較して市場状況が変わっている場合、評価結果に影響を与える可能性があります。マーケットの変動に敏感な手法であるため、評価結果が時期や環境に依存することが課題となります。
コストアプローチのデメリット
コストアプローチのデメリットとして、さまざまな要素に対して仮定を設定する必要があります。コストアプローチでは、評価対象の資産を再現するために必要なコストを評価します。しかし、その評価には多くの仮定が必要です。例えば、再現コストや減価償却方法、市場価格の変動などの要素に関する仮定が含まれます。これらの仮定は、正確な評価結果を得るためには重要ですが、不正確な仮定が行われると評価結果が歪む可能性があります。
他にも、コストアプローチは、再現コストを評価する手法ですが、評価対象が他の類似資産と異なる特性を持つ場合、適切な評価が難しくなります。例えば、特許やブランド価値などの無形資産や特殊な技術を持つ資産の評価には、他の資産とは異なる考慮が必要です。
スクイーズアウトを活用するケース
スクイーズアウトを利用するケースとして、M&Aの際が挙げられます。スクイーズアウトは、M&Aにおいて多数株主が少数株主を排除するために使用されることがあります。主体企業が対象企業を買収した後、株主総会での特別決議を経て少数株主を株式から排除し、完全な支配権を獲得することが目的です。
他にも、対立意見を持つ少数株主を排除したい場合にスクイーズアウトは利用されます。少数株主が経営に対して反対意見を示し、会社の円滑な運営が困難になった場合、多数株主はスクイーズアウトを実施し、少数株主を排除して経営権を確保することがあります。
スクイーズアウトが実施された事例
では、実際にスクイーズアウトが実施された事例を2つ紹介します。
ソフトバンクグループによるLINEのスクイーズアウト:ソフトバンクは2020年、韓国のネイバーと行っていたネイバー傘下のLINEに対する株式公開買い付けで、全ての株式を取得できなかったため、2,900万株を1株に併合するというスクイーズアウトを実施しました。
商船三井によるダイビルと宇徳のスクイーズアウト:商船三井は2022年、株式公開買い付けによってダイビルと宇徳を子会社としました。さらに、スクイーズアウトによりダイビルと宇徳を完全子会社化しました。
まとめ
本記事では、スクイーズアウトの手法やスクイーズアウトでの買取価格を決める際に使用される株価算定方法について解説しました。スクイーズアウトは、株主の権利を制限することで少数株主を排除する手法であり、M&Aや株主間の紛争解決などさまざまなケースで利用されます。また、様々な株価算定方法を解説しました。その時々にあった株価算定方法を利用することで、適切な企業評価をしましょう。