特別支配株主とは?株式等売渡請求制度や少数株主からの買い取りが必要な理由を解説

特別支配株主とは?株式等売渡請求制度や少数株主からの買い取りが必要な理由を解説

2015年の会社法改正によって、株式会社の総株式の90%以上の株式議決権を保有する株主を「特別支配株主」といい、「特別支配株主」には、取締役会の決議があれば、対象株式会社の株主全員に対し、株式を特別支配株主に売り渡すように請求する「株式等売渡請求」が認められました。

「株式等売渡請求」という制度を利用して、「特別支配株主」は少数株主の株式をすべて買い取ることによって、少数株主を排除することができ、結果として、会社の支配権を100%取得することができます。

今回は、この「特別支配株主による株式等売渡請求制度」とはどういうものなのか?また、株式等売渡請求制度によって少数株主から株式を買い取る必要がある理由やそのメリットなどを解説します。

少数株主(敵対的株主)を会社から排除したい方はこちら! 

特別支配株主とは

特別支配株主とは、会社法179条1項に示されている通り、株式会社の総株主の議決権の90%以上(これを上回る割合を対象株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)を保有する株主のことです。特別支配株主は、2015年の会社法改正によって制定された、特別支配株主による株式等売渡請求制度によって、現金を対価として少数株主を排除、いわゆるスクイーズアウトができるようになりました。

特別支配株主による株式等売渡請求をする特別支配株主は、1人でなければなりません。よって、例えば2人の株主が、合わせて90%以上の議決権を持っていて、2人が合意したからと言っても、特別支配株主による株式等売渡請求制度を利用して、他の少数株主を排除することはできません。 

よって、「特別支配株主による株式等売渡請求制度」の特別支配株主になるためには、まず、他の株主から株式を取得して90%以上議決権を持つ株主となる必要があります。1人で90%以上の議決権を持って初めて特別支配株主となることができます。 

特別支配株主による株式等売渡請求制度

会社法の179条1項には、「株式会社の特別支配株主は、対象株式会社の株主の全員に対して、その有する対象株式会社の株式の全部を当該特別支配株主に売り渡すよう請求することができる」と書かれています。この条文で示されているのが、特別支配株主による株式等売渡請求制度です。  

この特別支配株主による株式等売渡請求制度は2015年の会社法改正で定められました。この制度が定められた背景には、時代の変化が急速化する中で、経営判断を迅速化するために、できるだけ容易に多数派株主が少数株主をスクイーズアウトできるようにしたいという要請がありました。 

会社法では、少数株主にも株主としての一定の権利が認められていますが、多数派の株主からすれば、少数株主が頻繁にその権利を行使して多数派の経営判断に反対をされると、迅速な会社経営の決断ができなくなり、最近の会社経営環境流れの速さについていけなくなる可能性があります。 

このような場合に、多数派の株主は少数派の株主の株式を買い取り、完全に対象会社の経営判断を支配したいと考えることになります。それを速やかに実現する1つの方法として、特別支配株主による株式等売渡請求制度が設けられました。 

これにより、90%以上という多数の議決権を持つ特別支配株主による、少数株主のスクイーズアウトが、比較的容易に行えるようになりました。  

特別支配株主による株式等売渡請求制度のメリット

2015年の会社法改正で認められるようになった、特別支配株主による株式等売渡請求制度のメリットとしては次の項目が考えられます。 

  • 多数派株主に経営権を集中できる 
  • 少数株主の同意がなくても強制的に株式を買い取ることができる 
  • 比較的容易に少数株主の株式の買い取りができる 

それぞれのメリットについて、詳しく見ていくことにします。 

多数派株主に経営権を集中できる

株式会社の大きな経営の方針は、株主の議決権で決定されます。この際、株主総会が開催されて決議されれば、当然、多数派株主の方針が通ることになります。 

しかし、一方で少数派株主の権限も一定認められており、少数派株主がその権利をフルに発揮すると、その手続きに時間を要することになり、迅速に経営判断をすることができません。 

特別支配株主による株式等売渡請求制度によって、少数株主をスクイーズアウトし、多数派株主に経営権を集中して、完全に対象会社を支配すれば、経営判断にブレがなくスピーディに経営方針を決めていくことができます。 

このことは、特別支配株主による株式等売渡請求制度の1つの大きなメリットということができます。 

少数株主の同意がなくても強制的に株式を買い取ることができる

株式会社の株式の売買は、基本的には売り手と買い手の合意によって成立します。よって、多数派株主が少数派株主の株式を買いたいと思っても、少数派株主が所有株式の売却の意思がない場合、買い取ることは困難です。  

しかし、特別支配株主による株式等売渡請求制度は、この原則にかかわらず、強制的に少数株主の株式を買い取ることを認める制度です。 

これによって、特別支配株主になれば、特別支配株主による株式等売渡請求制度を利用して、少数株主の意思にかかわらず、対象会社のすべての株式を取得することが可能になります。 

少数株主(敵対的株主)を会社から排除したい方はこちら! 

比較的容易に少数株主の株式の買い取りができる

特別支配株主による株式等売渡請求制度は、多数派株主による少数派株主のスクイーズアウトを目的として設けられた制度です。よって、この制度に従って手順を踏めば、比較的容易に少数派株主の株式買い取りが可能となります。 

特別支配株主による株式等売渡請求制度のデメリット 

特別支配株主による株式等売渡請求制度には、これまで見てきたようなメリットがある一方で、次のようなデメリットがあると考えられています。 

  • 実施するための要件が厳しい 
  • 税務上の負担が生じる可能性がある 
  • 訴訟を起こされるリスクがある 

実施するための要件が厳しい

特別支配株主による株式等売渡請求制度の最大のデメリットは、制度の行使の要件である特別支配株主になることだといわれています。  

前述のとおり、特別支配株主というのは、対象会社の議決権の90%以上を持っている株主です。もともと株式が多数の人に分散している場合には、特別支配株主になるということは、かなりハードルが高くなります。 

なお、対象会社の議決権割合の算定にあたっては、特別支配株主となる者が自ら保有する議決権に加えて、その者の特別支配株主完全子法人(特別支配株主となる者が、発行済株式の全部を有する株式会社、その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人)が有する議決権も合算して計算することができます。  

いずれにしても、特別支配株主による株式等売渡請求制度の最大のデメリットは、その行使ができる株主である、対象会社の議決権を90%以上持っている株主にしかその権利が認められていないという条件の厳しさだと言われています。 

税務上の負担が生じる可能性がある

特別支配株主による株式等売渡請求制度を使って少数株主をスクイーズアウトするという手法を取る場合、1人の株主に対象株式会社の90%以上の議決権を集中させる必要があるということは、これまで述べてきた通りです。 

少数株主のスクイーズアウトを行いたいという動機は、多数派株主の方針に従わない少数株主を排除したいという場合が多いのですが、一方で対象会社の経営方針が一致している株主については、スクイーズアウト後も残ってもらいたいという場合も考えられます。 

このような場合には、いったん1人の多数派株主に株式を90%以上になるように集中させ、その後元の株主に返却するという手続きが必要になります。 

そして、このような一旦1人の株主に株式を集中させ、スクイーズアウト後、元の株主に株式を戻す場合、2度の株式売買取引が必要になり、その買い取り、返却の売買に対してそれぞれ課税がなされます。 

1人に集中させる必要がなければ発生しない課税の負担が起こるということも、特別支配株式による株式等売渡請求制度を利用することのデメリットと言えます。 

訴訟を起こされるリスクがある

特別支配株主による株式等売渡請求制度を利用する場合、少数株主から株式の売渡を受けることになります。この売渡価格等について、売却する側の少数株主が納得できない場合、訴訟を提起される可能性があります。 

株式の算定方法には、いろいろな方法があって、特に非公開株の場合には、その適正な価格について、売り手と買い手の評価に差が出ることがあり得ます。 

売り手と買い手の思惑が違って、少数株主の側が売渡株式の価格に異議がある場合には、少数株主は会社法179条の8に基づいて、買い手の取得日となる日の20日前の日から、その前日まで、適正価格の算定を求めて売買価格の決定の申し立てを裁判所に対して行うことができます。 

この場合、売り手も買い手も訴訟をするための費用を負担することになり、それなりの期間、訴訟のための時間も要しますので、この点は、特別支配株主による株式等売渡請求制度のデメリットと言えます。 

特別支配株主による株式等売渡請求制度の手続きや流れ

特別支配株主による株式等売渡請求制度によって、少数株主をスクイーズアウトする方法を取る場合の具体的な手続きは次の通りとなっています。 

  • 会社への株式等売渡請求の通知 
  • 取締役会の承認 
  • 少数株主への通知 
  • 事前開示手続 
  • 株式の移転 
  • 事後開示手続 

それぞれの手続きについて詳しく見ていくことにします。  

会社への株式等売渡請求の通知

特別支配株主が株式等売渡請求制度によって、他の少数株主の株式をすべて買い取る場合には、まず、対象会社に対して、売渡請求を取締役会で承認するように通知をします。 

この通知では、特別支配株主は対象会社に対して、少数株主から株式を買い取る価格または価格の算定方法、株式を取得する日(取得日)、買い取り資金の調達方法などを定めて明記します。 

取締役会の承認

特別支配株主からの株式等売渡請求に関する通知を受け取った会社は、取締役会で特別支配株主から通知を受けた内容で承認するかどうかの決議をします。 

特別支配株主が90%以上の議決権を持っている株主であることからすると、取締役会で特別支配株主の請求を拒否する決議をすることは考えにくいです。 

しかし、取締役には少数株主に対しても、善管注意義務を負っていることから、極端に妥当でない株価の提示など不当な売渡請求を承認した場合には、のちに少数株主から善管注意義務違反に問われる可能性もあります。  

これらのことに注意をして、対象会社の取締役は、取締役会において、特別支配株主の売渡請求を承認することになります。 

少数株主への通知

会社は、取締役会で特別支配株主が通知してきた株式等売渡請求を承認した場合には、その旨を、特別支配株主が提示した取得日の20日前までに少数株主に通知しなければなりません。 

通知する内容は、特別支配株主の氏名又は名称、住所、対価として交付する金銭の額又はその算定方法、取得日などです。少数株主が多数いる場合には、それぞれに通知することに替えて、公告をする方法を取ることも可能です。 

事前開示手続

会社は、対象会社が株式売渡請求の承認をしたことを少数株主に通知した日または公告をした日のいずれか早い方の日から、特別支配株主が他の少数株主から株式を取得する取得日から6か月間(非公開会社の場合は1年)を経過するまでの間、当該特別支配株主による株式等売渡請求の内容に関する一定の書類または電磁記録をその本店に備え置く必要があります。  

株式の移転

特別支配株主が会社に対して通知をして、対象会社の取締役会によって承認された取得日に、他の少数株主の株式は特別支配株主に移転します。この移転は、特別支配株主の他の少数株主に対する株式の対価の支払いを待たずに行われます。 

よって、取得日の後は、特別支配株主から他の少数株主に対する対価の支払いのみが残ることになります。 

事後開示手続

対象会社は、取得日後遅滞なく、株式等売渡請求により特別支配株主が取得した売渡株式等の数、その他の株式等売渡請求による売渡株式等の取得に関する事項として法務省令で定める事項を記載した書面または電磁的記録を作成し、取得日から6か月間(非公開会社の場合は1年)を経過するまでの間、株式等売渡請求により特別支配株主が取得した売渡株式等の数、その他の株式等売渡請求による売渡株式等の取得に関する事項として法務省令で定める事項を記載した書面または電磁的記録を作成し、その本店に備え置かなければなりません。 

少数株主が反対する場合の対抗手段

ここまで見てきた通り、特別支配株主による株式等売渡請求は、対象会社の90%以上の議決権を有する特別支配株主にとっては、非常に強い効果を持つ手段です。  

法律に定められた手続きに従って、少数株主に対して適正な株式買い取り価格を提示する限り、少数株主が望んでいなくても、少数株主の株式は強制的に特別支配株主に売り渡されてしまいます。 

特別支配株主による株式等売渡請求制度は、特別支配株主にとっては、少数株主を容易にスクイーズアウトできる便利な制度であると同時に、少数株主にとっては、継続して対象会社の株式の所有を希望していても、その意思に反して売り渡さなければならなくなるというドラスティックな制度でもあります。 

そのため、少数株主にも、次のような対抗手段が用意されています。 

  • 売渡株式等の取得をやめることの請求 
  • 売渡株式等の取得の無効の訴え 
  • 売買価格の決定の申立て 
  • 役員への責任追及 

売渡株式等の取得をやめることの請求

特別支配株主による株式等売渡請求の承認について会社から通知を受けた少数株主は、①株式売渡請求が法令に違反する場合、②対象会社が売渡株主に対する通知又は事前開示手続を行う義務に違反した場合、③売渡株式等の売買価格等が著しく不当である場合には、売渡株式等の全部の取得をやめることを請求することができます。 

逆に言えば、法律に則った形で、妥当な価格をもって売渡請求がなされている場合には、売渡株式等の取得をやめることの請求が認められることは困難です。 

ただし、そのような場合でも、多数派株主が少数株主を不当な動機によって締め出そうとしているような場合には、多数派株主の権利濫用を主張して、①の株式売渡請求が法令に違反するとして売渡株式等の取得をやめることの請求をして認められる可能性もあります。 

いずれにしても、特別支配株主による株式等売渡請求の承認について会社から通知を受けてから、20日で取得日がやってきて、特別支配株主に株式が移転してしまうため、売渡株主は早急に差し止めを求める必要があります。 

実際の手続きとしては、まず差し止めの仮処分申請を行うことになります。 

売渡株式等の取得の無効の訴え

特別支配株主による株式等売渡請求の売渡株式等の全部取得の無効は、特別支配株主が少数株主から株式の移転を受けた取得日から6ヶ月以内(対象会社が非公開会社の場合には1年以内)に、株式を移転させた少数株主が、特別支配株主に対して売渡株式等の取得無効の訴えを提起することによって訴えることができます。 

無効事由は、法律には明記されていませんが、対象会社の取締役会決議の瑕疵、売渡株主等に対する通知・公告の瑕疵、事前開示書類の瑕疵、差止仮処分命令に対する違反、対価の額が著しく不当であるなどが事由になりえると言われています。 

売買価格の決定の申立て

特別支配株主による株式等売渡請求で、売渡株式の売買価格に不服がある売渡株主は、取得日の20日前の日から取得日の前日までに、裁判所に対して、その有する売渡株式等の売買価格の決定の申立てをすることができます。 

この申立てによっては、少数株主は特別支配株主への株式の移転を免れることはできませんが、特別支配株主が、勝手に決めた不当な価格での売却を免れることはできます。 

役員への責任追及

対象会社の取締役が、特別支配株主による株式等売渡請求の取締役会などでの承認に際し、売渡株式等の売買価格が妥当でないにもかかわらず、特別支配株主が通知をしてきた株式等売渡請求について承認をした場合など、対象会社の取締役が善管注意義務に違反していると考えられる場合には、売渡株主等は、承認をした取締役に対し、損害賠償責任を追及することも考えられます。 

まとめ

特別支配株主による株式等売渡請求は、2015年の会社法改正によって、対象会社の総株式の90%以上の議決権を有する株主に認められた制度です。 

この制度によって、対象会社の総株式の90%以上の議決権を持つ特別支配株主は、他の少数株主をスクイーズアウトすることが容易になりました。 

一方で、少数株主にも条件は厳しいですが、売渡が不当であるとされるような場合には、対抗手段がありますので、これらの対抗手段についても、よく理解しておく必要があります。 

少数株主の排除(スクイーズアウト)の方法を見る!