株式売渡請求権の内容とメリット・デメリット!
平成26 年度会社法改正において、『特別支配株主の株式等売渡請求』という制度が新設されました。
この記事では、そんな株式等売渡請求のメリット・デメリットや手続きの内容などの情報についてM&A弁護士が徹底解説していきます。
この制度は、M&A後に残存する少数株主を締め出して完全子会社化を実現する手段として、また、経営権を集中させるための手段として非常に有効です。
2019年の日本企業が関わった企業の合併・買収(M&A)の件数は「4,088件(前年比6.2%増)と3年連続で増加しており、2000年頃には約1,160件ほどだったM&Aの件数はその3~4倍にも膨れ上がっています。
このように事業継承のM&Aの件数が年々伸びている中で、いかに株式を手際よく集約するかは企業のテーマとなっています。
そんな中、これから事業継承やM&Aが増えていくことが予想される中で株式等売渡請求は欠かせない権利であり、その株式等売渡請求に関する情報は経営者として抑えておくべきでしょう。
株式等売渡請求とは?
『株式等売渡請求』とは、対象会社の総株主の議決権の10分の9以上を保有する「特別支配株主」が、対象会社において、その承諾や売渡株主に対する通知・公告等の手続を経ることにより、他の株主(少数株主)等が有する対象会社の株式等の全部を強制的に取得できる権利です。
平成26年度会社法改正においてこの制度が導入されたことにより、以前よりも上場会社の完全子会社化などを簡略的に実施できるようになりました。
平成26年度会社法改正前と改正後の実務
本来、平成26年度会社法改正前に上場企業を完全子会社化する為には、公開買付けにより株主総会における特別決議を可決できるだけの株式を取得し、全部取得条項付種類株式、または株式交換を用いて買収する、いわゆる「二段階買収」を行うのが一般的でした。
株主総会決議はもとより、価格決定裁判が必要となる可能性がある二段階買収は、株式の買収が完了するまでにかなりの所用期間を要していました。
ですが、平成26年度会社法改正後は、株式等売渡請求を活用することにより対象会社における株主総会決議や端数処理(裁判所の非訟手続)を行う義務がなくなったため、所用期間もおおよそ「3ヶ月程度」で済むようになり、従前に比べ、容易に完全子会社化を実行できるようになったのです。
非上場会社であっても、この話は同様であり、主要株式の集約を進めたり、会社が自己株式取得をしたりして、対象会社の総株主の議決権の10分の9以上を保有する「特別支配株主」になれば、この特別支配株主の株式等売渡請求権を行使することにより、容易に、対象会社の株式の買収を完了することができるようになったのです。
株式等売渡請求のメリット・デメリット
株式等売渡請求は、非常にメリットの多い権利です。
しかし、その反面少なからずデメリットも存在するため、ここでは株式売渡請求権のメリット・デメリットの双方を徹底解説していきます。
株式売渡請求権のメリット
①買収完了までの期間を短縮できる
株式等売渡請求の最大のメリットは、その期間を短縮できる点にあります。
前述の通り、株式等売渡請求を活用すれば対象会社における株主総会決議が不要となり、取締役会決議で足りるようになります。
また、端数処理(裁判所の非訟手続)も必要ありません。
たとえば、株式等売渡請求を用いず株式併合の二段階買収を実施した場合、過去の実例から推測すると、買収が完了するまでに「約4ヶ月~半年程度」かかっていることがわかります。
その反面、株式等売渡請求を用いた二段階買収ならば、ほとんどが「約3ヶ月程度」で買収が完了していることがわかります。
買収までに数ヶ月もの期間を短縮できるのは、できるだけ早急に買収を完了させたい買付者にとって非常に大きな利点です。
さらに、株主総会を要しない株式等売渡請求は、費用を節約できる効果にも期待することができるのです。
②経営権を集中させることができる
会社の歴史が長くなってくると、親族間などで株式が分散してしまっていることがあります。
事業を継承する場合、後継者に経営権を集中させるために、できるだけ分散している株式を集約しておきたいと考えるのが通常です。
株式等売渡請求を行使すれば、半ば強制的に経営権を集中させることが可能となっています。
株式等売渡請求のデメリット
①実行要件のハードルが高い
実は、株式等売渡請求は総議決権のうち「90%以上」を有する「特別支配株主」しか行使することができません。
議決権保有割合の算定に当たっては、特別支配株主となる者が自ら保有する議決権に加え、その者の特別支配株主完全子法人(特別支配株主となるものが、発行済株式の全部を有する株式会社、その他これに順ずるものとして法務省令で定める法人)が有する議決権も合算されます。
しかしながら、それでも一般的に考えて90%というハードルはかなり高く、株式が分散しているならば、尚更株式等売渡請求を行使出来ない可能性は高いです。
また、直近の開示書類記載の総議決権数をベースにした議決権割合を計算した場合、90%ギリギリに達するか否かという状況では、株式等売渡請求を行使するべきか判断が難しいケースもあります。
このようなケースでは、直近の新株予約権の行使や単元未満株式の買取、買増請求の状況を確認することで、分母たる対象会社の総議決権数を把握しなくてはいけません。
また、さらなる詳細を確認する必要があるならば、証券保管振替機構に対する情報提供請求制度なども利用しなくてはいけなくなる可能性があります。
いずれにしても、実行要件が厳しい点は、株式等売渡請求の最大のデメリットであるといえるでしょう。
②株式売買価格が交渉により決着しない場合、裁判になる可能性がある!
少数株主が売買価格に不満の場合は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法179条の8)。
この場合、最終的には、裁判所が、公正な価格を決定いたしますので、会社としては、少数株主から、安く株式を買い取ってしまうということはできません。
特別支配株主による株式等売渡請求の場合は、強制的な株式の買取ですので、少数株主であることを前提としたディスカウントされた株価(配当還元法など)に基づく株式売買価格の決定が行われるのではなく、組織再編に伴う株式買取請求権のようにディスカウントの無い株価(時価純資産法や収益還元法)に基づく株式売買価格の決定が行われるものと思われ、特別支配株主としては、株式売買価格が想定外に高騰する可能性もあります。
③税務上の非効率が生じるリスクがある
株式等売渡請求によるスクイーズアウトを実施する場合、スクイーズアウト後も株主として残したい相手がいるケースもあります。
しかしこの場合、一旦全株式を特別支配株主に譲渡した後に再度株式をその株主の手元へ戻す必要があるため、その都度課税されてしまいます。
二度にわたる課税という税務上の非効率が生じてしまうのは、特別支配株主にとってのデメリットです。
株式等売渡請求を用いたスクイーズアウト
中小企業のM&Aや事業承継においては、分散された株式の100%取得を目指すのが一般的です。
ただし、株主が複数いる会社を譲渡する際には、個々の株主からの同意を得て株式を買取ることが必要となってくるのですが、場合によっては、株主が株式の買取りに同意しなかったり、株主と連絡が取れなくなってしまっているなどといった理由で株式の集約が困難となることもあります。
そのようなケースでは、株式等売渡請求によるスクイーズアウトを実施することが、問題の解決の糸口となるでしょう。
株式等売渡請求によりスクイーズアウトを実施すれば、法律に従って少数株主を排除し、その結果経営者が全株式を保有することも可能となります。
また、議決権が分散していれば、意見の食い違い、場合によっては面倒な紛争に発展してしまう恐れもありますが、スクイーズアウトの実施後はその心配もなくなります。
さらには、株式を集約し、株主が経営者一人になることができれば、株主の管理に伴う手間や時間、コストの削減ができるメリットも生まれるのです。
株式等売渡請求を用いたスクイーズアウトの手続きとは?
株式等売渡請求を用いたスクイーズアウトを実施する場合、以下のような必要な手続きがあります。
①会社に対して株式売渡請求を実行する旨を伝える
②株主の請求に応じて会社側は取締役会を開き、株式等売渡請求を承認するかを決議する
株式等売渡請求の実行が承認されれば、他の株主に株式売渡請求を承認した旨を通知する
③株式売渡請求を実行する株主(経営者)は、予め設定した「取得日」に株式を強制的に取得し、取得代金を対象株主に支払う
株式等売渡請求を用いたスクイーズアウトの手続きを行う上で留意すべき点は、会社側は株式売渡請求に関する資料を、会社法の規定に基づいて本店に備え置く必要があるという点です。
株式等売渡請求の実行が完了したあとに、会社側では株式等売渡請求に関する資料を、本店に一定期間備え置かなくてはいけない義務があります。
株式等売渡請求を用いたスクイーズアウトの手続きは、最短ならば20日で完結させることができるため、迅速な株式の集約化、経営権を集中させることが可能です。
90%要件の内容と確認のタイミングとは?
前述の通り、M&A目的の「特別支配株主の株式等売渡請求」では、90%の議決権保有が条件となります。
ただし、それはどのタイミングでの議決権保有数なのか、疑問に思う方も多いでしょう。
満たすタイミングは複数設定されているため、「株式等売渡請求時」「承認時」「取得日」のそれぞれにおいて、90%以上の議決権を充足しなければなりません。
まとめ
『株式等売渡請求』を活用することにより、以前よりも容易に100%子会社化などが実施できるようになったのは間違いありません。
ただし、株式等売渡請求を用いることができる場面や条件は限定されており、複雑なプロセスも存在していることから、成功させるためにはどうしても専門的な知識が必要となります。
よって、株式等売渡請求を行使する場合は、株式等売渡請求はもとより、M&Aや事業継承に特化した弁護士のアドバイスを受けることをご検討下さい。